◆皇居外苑濠における外来魚生息実態について


北海道立水産孵化場  工藤 智氏
環境省皇居外苑管理事務所  神ア政良氏・遠藤 稔氏・小田部恭子氏・木村昭雄氏



【目的】皇居外苑濠の概要


皇居外苑は,総面積約1.15km2,このうち濠の水面部分は13の濠(表1)をあわせて0.37km2で苑地全体の約3分の1を占める。

皇居外苑濠では,1975年,日比谷濠・馬場先濠・和田倉濠おいてオオクチバスが,1984年にはブルーギルが確認されて以降徐々に増え,2000年の調査ではオオクチバス・ブルーギルが急速に増加したことが明らかになった。このため,2001年から5年計画で皇居外苑濠外来種対策事業を開始して,投網・提灯網・人工産卵床等によるモニタリングを行い,一定の成果はあったものの,外来魚の抑制効果は十分に図られなかった。

2004年,北海道庁では電気ショッカーボートを用いたオオクチバス等の外来魚の個体数抑制を行い,2007年にはオオクチバスを一掃した。このため,電気ショッカーボートによる外来魚の生息数の推定精度を高めるための検討を行った。


【調査場所と方法】

電気ショッカーボートによる調査は皇居外苑濠生態系管理業務のなかで2006年度から2年計画で行なっている。今回報告する2007年度調査は5月,10月,11月,2008年2月の計4回行った。調査場所は,清水濠・大手濠・桔梗濠・和田倉濠・馬場先濠・凱旋濠・日比谷濠の計7濠である。

電気ショッカーボートでの捕獲調査は,各濠の石垣沿いを巡回しながら1日あたり3〜4回繰返しを1セットとした。但し,11〜2月の大手濠・日比谷濠の調査では2セットを行った。調査時の電気ショッカーの設定値は全て,ACモード,High レンジ(50-1000V),40〜50%の出力を維持した。

航行速度は2〜3km/毎時の範囲であった。捕獲は水中放電時に感電麻痺した,オオクチバスとブルーギルをタモ網で掬い上げた。環境条件の測定項目は,表面水温(℃),電気伝導度(mS/m)である。日比谷濠のブルーギルのみを用いて標準体長と湿重量の測定を行なった。一部個体の鱗相解析後,標準体長によって,0+魚(当歳魚群)と1+以上魚(親魚候補群)に分別した。

CPUE(単位努力量当りの捕獲数)は,調査毎の捕獲尾数に対する1時間あたりの値に換算した。生息個体数の推定は,プログラムCapture(http://www.mbr-pwrc.usgs.gov/software/capture.html) Population removal 法を用いて,各濠の捕獲数から個体推定数を求めた。

本報での用語として,推定残留尾数=(調査毎の個体推定数)−(調査毎の実際の捕獲尾数),推定効率(%)=(2008年2月の生息推定数)÷(2007年11月の推定残留数)と定義した。

【結果】
皇居外苑濠の調査期間における外来魚の捕獲数はオオクチバス680尾とブルーギル45,489尾であった(表2) 。
オオクチバスは,大手濠,清水濠,日比谷濠,凱旋濠の順で多く,馬場先濠,和田倉濠,桔梗濠では少なかった。2007年には皇居外苑濠ではオオクチバスの繁殖は確認できなかった。一方,比較して11月の方が極端に多かったことから,捕獲効率の違いが観察されたい。

各濠の捕獲時の水温とCPUEの関係では,2007年5月の水温は21.5±1.3℃(平均±標準偏差)に対して,CPUE は119.4±143.6尾/時であった。特に凱旋濠の1回目捕獲時のCPUEは558.9尾/時を示したが,この捕獲時間は35分間でブルーギル1+魚288尾を捕獲している。
2007年10月の水温は18.7±0.8℃に対して,CPUEは382.4±163.6尾/時となった。特にCPUEが高かったのは清水濠の1 回目捕獲時で767.1尾/時を示した。日比谷濠では全捕獲数2076尾に対し1205尾(58.0%)が0+魚であるが,この2007年生まれの0+魚の加入・捕獲のためCPUEが上昇した。他濠のCPUEも2007年5月に対して高く100尾以上/時の値であった。

2007年11月の水温は10.5±0.8℃に対して,CPUEは883.7±584.7尾/時となった。CPUEが高かったのは大手濠の2回目捕獲時で2134.8 尾/時を示した。この時期の日比谷濠では,捕獲した3898尾/時に対し2933尾(75.2%)が0+魚であった。従って,10月調査時以上に2007年生まれの0+魚の加入によってCPUEが上昇した。他の濠のCPUE も2007年10月に比較して高く200尾/時の値であった。

2008年2月の水温は6.2±1.2℃に対して,CPUE は194.8±178.1 尾/時であった。2007年10〜11月に比較してCPUEが低くなった。しかし,大手濠では主に午前中の調査時に水温が4.1〜5.3℃の場合のCPUEは166.5〜410.8尾/時であったが,午後になると水温は6.1〜7.1℃に上昇するに従ってCPUEは578.5〜613.2尾/時を示して高くなった。

皇居外苑濠における2008年2月以降のブルーギルの推定残留数(95%信頼区間)は,0+魚が3142(2759〜3610)尾,1+以上魚が283(183〜477)尾であった。約1年前の2007年2月時点では,ブルーギルの推定残留数(同)は,0+魚が2970(2566〜3454)尾,1+以上魚が1076(871〜1359)尾と算出されていたので,同時期2月の推定残留数の変化では,0+魚に大きな変化がないものの,1+以上魚の生息尾数は約1/3に減少したことが確認された。

皇居外苑濠に生息するブルーギルの親子の個体数推定を行った。2007年2月の1+以上魚の濠別の推定残留数は,清水濠・大手濠546尾,日比谷濠388尾,馬場先濠84尾,桔梗濠26尾,凱旋濠18尾,和田倉濠14尾であった。これに対して2008年2月までの各濠におけるブルーギル0+魚(2007年級群)の捕獲数と個体推定数の合計数は,清水・大手濠29969尾,日比谷濠11300尾,馬場先濠1956尾,桔梗濠1432尾,凱旋濠138尾,和田倉濠1776尾となった。このことから,2月の1+以上魚の親魚候補の推定値が100尾以下でも,その年の11月には新たに1000尾以上の0+魚が出現することになる。


【考察】
皇居外苑濠において電気ショッカーボートによる個体数抑制を行った。捕獲時の水温が6〜18℃の期間中に限ればCPUEは50尾/時以上の採捕効率が示された。今後,この抑制努力を継続することによって,生息数の減少とともにCPUEも低下すると予想される。しかし,濠によっては,ブルーギルの1+以上魚の残留個体数を数十尾まで減少させても,当該年秋や翌年夏にはブルーギルの0+魚の捕獲数が1000尾以上出現する,いわゆる個体の「リバウンド」現象が確認された。

電気ショッカーボートでの捕獲効率は,釣り等の一般的漁具に比較して高いこと,技術精度も必要ないため安定しており,例えばリバウンドの起こったブルーギル0+魚の大量捕獲ツールとして有用性は高いと考えられた。

【参考資料】工藤智・木村環(2008).ブラックバスを北海道が一掃宣言.魚と水(45-2):1-5.

※ 本調査の一部は水産庁の委託事業「電気ショッカーボートによる外来魚の駆除技術の開発」で行なった。


大阪府 辻井氏のコメント
ショッカーボートの値段について。一括購入して安く買えないか等の点をもっとPRして欲しい。


会場の方の質問
駆除が年間2回だけでもその位の効果は出るのか?

工藤氏のコメント
年間四、五回は環境省の決めたスケジュールでやっている。低い水温の方が駆除効果があるので行う時期によっては回数以上の効果が期待できる事もあると思う。


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