◆ 「進行する『ブルーギルの一人勝ち』現象」

姫路市立水族館   市川憲平氏


・はじめに
兵庫県は日本で一番ため池の数が多い県で、約44,000のため池があるといわれている。そのなかでも東播磨地域は、淡路島に次いでため池の多い地域である。これらの池では、以前は水を落とす『かい掘り』が定期的に行われ、魚貝類の採集が行われていた。
コイやウナギを採るための専用の道具も残っており、かい掘りは地域の大切なイベントとして賑わっていたものと思われる。しかし、最近では、水田や農業従事者の減少とともに、一部の池を除いて人手不足のためにかい掘りが行われなくなり、20年以上、水を抜いていない池も多い。






70年代末から80年代にかけて、これらのため池にオオクチバスやブルーギルが密放流され、休日になると県内外のルアー釣り愛好家が押し寄せるようになった。今では、池の近くまで車を乗りつけることが可能なほとんどの池で、これらの外来魚を見かけるようになってしまった。

ため池の改修は、以前から土地改良事務所を中心に行われてきたが、2001年の法改正の中で自然環境への配慮が謳われたこともあり、改修のための落水時に外来魚駆除のイベントが行われるようになった。この動きに環境部局も続き、環境部局主体のかい掘りイベントも行われるようになった。これらのイベントに参加し、感じたことを発表する。

・調査地、調査年、
調査地は、兵庫県高砂市、加古川市、小野市、加西市にある8か所のため池で、2002年から2008年にかけて、10月、11月に合計9回の調査を行った。




・結果
小野市の棚田上部にある比較的小さなため池1か所を除いて、7か所のすべての池でオオクチバスを確認した。そのうちの5か所ではブルーギルも確認した。定量的調査は行わなかったが、ブルーギルの大型個体がたくさんいる池では、ブルーギルの当才魚以外の当才魚は確認できなかった。コイ、フナ(ヘラが大半)、オオクチバス、タイワンドジョウとも中、大形個体だけだった。逆に、ブルーギルがいない池や、ブルーギルの大形個体が少ない池では、タモロコなどの在来魚やオオクチバスの当才魚を確認できた。この付近のため池には、以前は、数多くのウシガエルが生息していたが、ウシガエル幼生はまったく確認できなかった。

これらを総合すると、オオクチバスだけ放流された池では、在来魚が生き残る可能性もあるが、続いてブルーギルが放流され、大形個体が増えてくると、ブルーギル以外の魚は繁殖できなくなることがわかった。このままの状態が続けば、いずれはブルーギルしかいない池が出現してくると予想される。高砂市鴻池は2005年に続いて2008年にも水を抜いた。2005年のかい掘りでは、落とし口付近に10x30mほどの浅い池を残して終了したため外来魚が生き残ったが、2008年ではその数は明らかに少なくなっていた。

また、直接確認したわけではないが、2008年11月に水を落とした加古川市の下峠の池では、タイワンドジョウの前年生まれの幼魚が採集されたが、この池にはオオクチバスもブルーギルも入っていなかった。なお、オオクチバスが放流されず、ブルーギルだけが放流され、繁殖している加西市の池で、2008年秋にタイワンドジョウ当才魚とイチモンジタナゴを確認している。



大阪府 辻井氏の質問
ブルーギルの公式放流の記録は残っているのか?

市川氏のコメント
わからない。


琵琶湖博物館 中井氏の質問
兵庫県の溜池の水源はどの様なものが多いのか?

市川氏のコメント
池によってはダムから入ってくるところもある。人為的な密放流も多いと思われる。西播磨には水源的に孤立した溜池が多い。


茨城県 萩原氏の質問
水系の構造によっては変化があると思うのでまとめてくれたらありがたい。

市川氏のコメント
みどりネット等に紹介してもよい。


会場の方の質問
池干し後の復元の計画は?

市川氏のコメント
池干ししても完全には駆除できない。上の栓だけ抜いても水が抜け切れないので残ってしまう。池の改修時には完全に干し上げができる場合もある。20cmまで水を下げれば鳥(鷺等)が食べてくれるだろうと期待している。「かわいそうだ」という感情的な理由からの反対も多い。池によっては在来種が戻っている場合もある。

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