◆遺伝子を用いた新たな外来魚の駆除手法の研究紹介


独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所    岡本 裕之氏


平成26年度より開始した、遺伝子を用いた新たな外来魚の駆除手法の基盤開発研究について紹介する。

本研究は、環境研究総合推進費の新規研究課題「遺伝子編集技術を用いた不妊化魚による外来魚の根絶を目的とした遺伝子制圧技術の基盤開発」で実施している。

対象魚種はブルーギルであるが、本駆除手法の基本的な考え方はブルーギルに限らず、ほ乳類やは虫類、昆虫、植物など多くの侵略的生物種に応用できるものである。したがって、将来的にはオオクチバス、コクチバスなど他の魚種にも応用できるものと考えている。
水抜きの様な物理的駆除は溜池等小規模な水域では有効であるが大規模な水域や希少種が存在する水域では有効では無い。昆虫の世界ではウリミバエを不妊化した雄を放虫する事で完全駆除に成功した事例がある。外来魚では同様の事例は存在しない。その理由としては大量放流が必要でありコストの問題が大きいのと一時的に総個体数が増加する為在来種への影響が大きすぎるのと継続して行わないとリバウンドの危険性が増大するからである。

論文等で発表されているYY染色体を持つ雄や雌を使えば不妊化された個体が増え減っていくであろうという事は論文等で発表されている。

今回の発表はメス不妊化オスを作出しそれによって駆除しようという手法である。不妊化された遺伝子を持った魚が徐々に増えてゆき最終的に根絶に至るというイメージである。既に行われている物理的駆除を併用する事が前提となっている。

仮に当初の物理的駆除率を60%と仮定する。駆除が進行すると個体数が減り駆除率が下がってくる。放流魚の割合を6%と仮定し放流魚を駆除対象から外し、放流魚の駆除率を野生魚の半分とした場合30年で根絶できるというシミュレーション結果が出ている。

この方式なら大量放流を必要とせず8%〜10%の放流で済むであろうと言われている。環境コストが少ない上に過去の放流が無駄にならず継続的に実施できリバウンドの心配も無い。また放流個体の遺伝子を調べる事によってモニタリング(追跡調査)が可能である。
メス不妊化オスの作出方法であるが最近、特定の遺伝子をピンポイントで壊す技術が開発されている。メス不妊化オスの作出とその効果的な放流方法の開発を今後三年間でやっていきたいと考えている。

強調しておきたいのはこれは所謂GMO(遺伝子組み換え)では無いという点である。遺伝子組み換えというのは他の種の遺伝子を導入するにものであるがこの研究はブルーギルが元々持っている遺伝子をピンポイントで壊すという点である。このメス不妊化オスを人間が食用にしたとしても全く問題は無い。

日本の在来種にはブルーギルと交雑する種類はいないので影響はなくまた継続的に放流しなければ影響が出ないのでブルーギルの原産地(北米)にこのメス不妊化オスが持ち込まれたとしても影響は無いと考えている。

本発表では、当研究の概要を紹介し、内水面漁業、行政、試験研究機関の方々や、学生、釣り人、市民団体などの一般の皆様から、本手法の疑問点や外来魚駆除の現場からのコメントなど率直なご意見や現場からの貴重な情報等を頂き、将来実りある駆除技術となるように議論を深めたいと考えている。


本研究は、環境省「環境研究総合推進費」の援助を受けて実施している。
(参照)http://www.env.go.jp/policy/kenkyu/suishin/kadai/new_project/pdf/4-1408.pdf


一般参加者の方の質問
とてつもなく大きいブルーギルが出現するとかそういう事は考えられないか?

岡本氏のコメント
成長に関する遺伝子はわかっているしピンポイントで壊す事ができるので生殖に関する遺伝子のみをターゲットにしている。そういう心配は無い。安全性に関しては実験段階できちんとデータを出して大学や行政に評価してもらう。


三重大学 鈴木氏の質問
雄の遺伝子を操作してYY雄を作り出すという事であるがこの場合の雄は縄張り雄を仮定しているのか?ブルーギルの雄の場合スニーカーとか色々なタイプがあるのでモデルの正確性が求められると思う。

岡本氏のコメント
三重大学の川村先生に入って頂いてブルーギルの生態に関する調査等も行ってゆく予定である。


鈴鹿川のうお座 桜井氏の質問
リバウンドの話があったが外来魚を駆除し在来種を放流すると一時的に爆発的に増えるが一定期間後にまた減小する事がある。似た様な事が起きないか?

岡本氏のコメント
その点に関しては実験段階で充分留意してやっていきたいと考えている。

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